新鋭ブランドVIBIAが手掛ける
LED照明の新しい形
前編
冒頭の写真は、最近Web上でも見かけることが増えた”Wireflow”。張り巡らされたワイヤーとLED光源でシャンデリアのシルエットを形作る不思議な照明です。
この斬新なデザインを生み出したのがスペインの照明ブランド、VIBIA(ヴィビア)です。独自の技術力が可能にしたデザインは、ヨーロッパだけでなく世界の照明シーンをリードしています。照明の新時代を感じさせるデザインは、誰とも被らない、個性派の空間作りに最適な選択肢です。
Index
写真はヴィビアを代表する照明デザインの数々。どれも従来の照明デザインとは一線を画した、自由な発想で作られています。その秘密はヴィビアがLED光源に特化した照明ブランドである点にあります。
現在もインテリア照明の多くが電球を前提にデザインされている一方、ヴィビアの照明に使われるのは全てLED光源です。電球を使う照明はガラス球の形状やサイズ、器具に差し込むソケットなど設計に物理的な制約がありますが、LED光源は形状も自由。大幅な小型化も可能なことから、これまで見たことがないような個性的な照明デザインを可能にしています。
デザイナー 岩崎一郎氏が見た
ヴィビアの哲学
1995年にご自身のスタジオを設立し、照明・家具などインテリア用品から、デジタルカメラ、携帯電話まで幅広いプロダクトデザインを手がけるデザイナー、岩崎一郎氏。彼のクライアントには ISSEY MIYAKE や Arper、SIGMA など、世界的なデザイン企業とともにヴィビアが名を連ねています。同ブランドでPin、Flat、Tubeなど複数のコレクションに関わっている岩崎氏に、コラボレーションを通じて感じたブランドの姿勢や、ご自身のデザイン哲学についてうかがいました。
— ヴィビアでは複数のコレクションを手がけておられますが、中でも思い入れや印象の強いものはありますでしょうか。
ヴィビアのプロジェクトはCEOのPere Llonchによるデザインブリーフが起点となり進行するのですが、彼の頭の中では照明のこと、デザインのこと、未来のことが常に渦巻いていて、彼のディレクションなくしてヴィビアを語ることはできません。
どのコレクションでも私たちは完成するまで様々なアイデア、感性、想像力から生まれる相乗効果を大切にしながら、試行錯誤と語らいのプロセスを楽しんできました。そういう意味でもヴィビアとの仕事が初めて形になったPinは記念すべきプロジェクトであり、今へと続くきっかけになりました。
2024年1月 東京江東区の「LIGHT & DISHES Lab.」にて行われた「光の体験」イベント。PinはYAMAGIWAが輸入するインポート照明の一つとして登場し、インスタレーションにも取り入れられた。
— Pinは昨年行われた弊社のイベントでも展示させていただき大変印象に残っています。手がけられた中で、日本の住宅に採り入れやすいモデルや、お勧めの採り入れ方を教えてください。
Pinは様々な空間に馴染むよう、「変わらない心地」をテーマに、日常の中で育まれてきた照明らしさを受け継ぎながら、現代の感性に響くデザインとなるよう心がけました。
Pinコレクションのテーブルライトとフロアライト
中でもPinのテーブルランプとフロアランプは日本の住宅環境にも合わせやすく、気分や家具の配置換えに応じて移動もしやすいモデルです。
スッと伸びた先にある光のプロポーションは、万国共通の街灯のような佇まいをイメージしながらデザインしたのですが、程よい存在感で街並みに馴染む街灯のように、Pinも空間のアクセントとなりつつ、静かに佇みます。
またPinは「人と家具と空間との距離感」を大切にデザインした照明ですので、人や体に近いところで灯りを感じて欲しいです。特にフロアの2灯タイプではそのような視点を機能的に反映しており、一人の時は手元と壁やサイドテーブル、そして二人の時にはお互いの手元を照らしたりなど、光の向きを変えながら人や場との関係性に呼応する使い心地を目指しました。
— 日本の住宅環境は欧州と比較しても狭い空間であることが多いです。スケールの違う住空間に照明をデザインする際は異なる配慮が必要となるのでしょうか。
ヴィビア本社でのFlat開発風景
ヨーロッパでもこじんまりとした空間は意外と多いのですが、圧倒的に違うのは天井高で、天井が高いだけで途端に広く、大きく感じられます。そのような空間では人との距離というよりも壁や天井などの建築との距離が近いウォールランプやシーリングランプのような照明ほど影響を受けやすく、東京のスタジオで見ていて大きすぎると感じていたものが、現地ではそこまで大きく感じないことや、むしろ足りないと感じることは度々あります。
毎回、バルセロナのヴィビア本社でプロトタイプを見ながら感じる感覚を大切に持ち帰って東京での検証に役立てています。
— 岩崎さんから見て、ヴィビアの特色や魅力はどのような点にありますでしょうか。
ヴィビアは大胆な提案性と製品としての使いやすさが絶妙なバランスで共存している稀有なブランドです。照明として前例のないようなアプローチでも、必ず使い勝手の良いプロダクトとしてまとめることを意識して開発しており、そのようなコレクションが豊富に展開されています。
岩崎さんがデザインを手がけた「Flat」シリーズのペンダントライト、シーリングライト、フロアライト(上段左側から)
また一つのコレクションの中だけでも、表情の振れ幅が大きいのが特徴で、テーブルランプ、ペンダントランプ、ウォールランプなどに展開する時も造形言語を統一しつつ、それぞれのランプに合わせてダイナミックに表現を変えることで、単体だけでなく群としての魅力を引き出しています。言い換えると新しい提案を実生活で確実に実装する、さまざまな仕掛けがなされているとも言えるでしょう。
— 弊社オンラインストアでは「明るさ」を求めて照明を探されるお客様は少なくありません。岩崎さんは照明の役割をどのように捉えれていますか。
照明は家具以上に人の気分や居心地を左右します。毎日当たり前のように照明に接しているため、私たちはそのことに慣れてしまっていますが、瞬時に人の心に働きかけることができるというのは、とても驚くべきことで、光の魅力そのものです。
機能的な明るさや演色性を求めるのも、照明によって得られるムードを求めるのも、それぞれの役割こそ違えど、日常の感情を整える存在として我々の生活に欠かせないものなのだと思います。
— YAMAGIWAは「アートのように心で感じるライティング」をテーマの一つとしています。岩崎さんが照明デザインで大切にしているのはどのような点でしょうか。
夜の灯を前提とせず、朝の灯、昼の灯、夕暮れの灯など、照明がOFFの時の佇まいも含め、照明器具をデザインする上では様々な情景や感覚をイメージしています。灯の表情や灯りのある情景に形を添えるのが照明デザインです。
例えば、夜が明けて、日光を室内に迎え入れる前の灯であったり、陽が傾き西陽の残光を部屋に馴染ませるように一つ一つ順番に灯していくような感覚であったり、夏に涼しく、冬に温かく感じる光と季節の相関性など、照明だからできることの一つ一つがどこかでデザインにつながっているように感じています。
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YAMAGIWA スタッフは2024年7月、ヴィビアのショールームから開発拠点までを含めた広大なオフィスを訪ねました。後編では現地の様子や、ショールームスタッフの証言から、VIBIA の自由で美しい照明デザインを紐解いていきます。