“One eye sees,the other feels.”
Wästberg の 生み出す 感性のあかり.
後編
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こちらの記事の後編です
今回は北欧の新鋭照明ブランド、Wästberg(ヴァストベリ)特集の後編。ブランドの創始者であるMagnus Wästberg(マグナス・ヴァストベリ)氏に独占インタビューを行い、ブランドの理念や製品開発の考え方、そしてブランドの未来についても語っていただきました。
Index
北軽井沢で行われた企画展『unplugged | 山の上等』での展示風景
ー 最初に、ヴァストベリを2008 年に設立された際のことを聞かせてください。お父様の照明会社で経験を積まれたそうですが、当時はどういった事業をしていたのでしょうか。
父(Jan Wästberg)が照明会社を営んでいたので、身近にいつも照明がある環境で育ちました。しかし父の跡を継ぐ気になれず、大学では経営学を学びました。当初はコンサルタントとしてのキャリアを追究したのですが全く向いておらず、自分のキャリアの方向性に対して不安や迷いを感じ、深く悩む時期がありました。そんな時、自分の心の声に耳を傾けてみたのです。
すると、私の情熱が建築やインテリアデザイン、とりわけ照明にあることに気づきました。照明の世界で人生を過ごしていきたいと強く思い、父のもとで働くことになりました。
北軽井沢で行われた企画展『unplugged | 山の上等』での展示風景
父の会社で働くうちに自分の会社を始めたいという野心が生まれ、準備期間としてさまざまな部署を経験しました。経理部にはじまり、マーケティング、開発にも携わり、営業としてスウェーデンや北欧全域を周りました。こうした多くの経験が、2008 年の自社設立につながっていきました。
父の会社では単に経営を学ぶだけではなく、照明に関する自分なりのアイデアやビジョン、理念を培うことも一つの目的であったと思います。
ヴァストベリの照明で構成されたワークプレイスの一例。フォーマルでありながら柔らかさや温かみを感じられる。
— 結果的にお父様の会社で学ぶものが多かったのですね。
ところで、マグナスさんの言葉で「測定可能な数値を満たしただけでは、必ずしもそれが素晴らしいプロダクトになるとは限らないと気付いた」とあります。何か具体的なエピソードがきっかけだったのですか。
父と一緒に仕事をはじめた頃、私たちは商談でさまざまなオフィスを訪ねる機会がありました。そこで衝撃だったのは、どこに行っても光環境が心地よくなかったことです。適切とされる規格・規定に沿って設計されたはずの空間なのに、安全や落ち着き、リラックスした感覚を与えるものでなく、むしろその逆で、冷たく不愛想な気がしました。なぜこのような印象を受けるのか疑問に思い、考えるようになりました。
照明には数値で測定できる要素がたくさんあり、それ自体は良いことです。しかし同時に、測定できない部分も非常に重要で、それは人間の感情や心理的なニーズに関わります。むしろ、そういった要素のほうがより重要かもしれません。
規則や基準というのは、常に測定できることに焦点を当てています。その方が扱いやすくて楽だからです。一方で、定義が難しく話しにくいものは避けがちです。だからこそ、特に照明の分野で、物理的な側面にばかり注目して、感情的な側面を後回しにしてしまうのです。
そこで私が興味を持ったのが、私たちがあまり知らないこと、つまり測定不可能なものでした。それを探求するために会社を立ち上げたのです。
— なるほど。数値で測定できないものにも焦点をあててプロダクトを作るときにはどんなことを心がけて進めるのですか。どういった段階やチェック項目を経ているのでしょうか。
(前編で紹介した)“The one eye sees, the other feels” というクレーの言葉は、もとは照明について語られたものではありません。おそらく彼は世界の見方について語っていたのだと思いますが、私はそれを人生哲学を表現する優雅で的確な言葉だと感じました。
つまり“The one eye sees” は 「私たちには光に対して物理的なニーズがあり、それを測定可能な方法で対処する必要があるということ」、”the other feels” は「私たちには光に求める心理的なニーズがあり、それを測定できない光の性質を使って解決する必要があるということ」です。これは先ほど話した内容と似ていますね。
このふたつの両立こそが正しいアプローチであり、価値なのです。私が現代の照明市場のなかで理解し難かったのは、商品開発の方向性が二極化していたことです。ほとんどの照明会社が製品の機能・技術のみに焦点を当て、反対に意匠性や情緒性のみに重点を置く照明・インテリア会社は、機能や性質にあまり注目していませんでした。
しかし、私は納得できませんでした。製品は両方の条件を満たして初めて優れたものといえます。なぜなら私たち人間には、どちらか一つではなく、必ず両方の欲求があるからです。だから、一つの側面だけに取り組んだり、焦点を当てたりするのでは意味がないと思います。
w201 エクストラ スモール ペンダントは光の品質や円錐形のミニマルな美しさを損なうことなく「ペンダントランプをどこまで小さくできるか」という課題に挑戦した製品。光源、リフレクター、ディフューザーを独自設計しサイズ以上の配光を実現している。
もう一つ製品開発について考えているのは、既成品や競合他社製品の焼き直しをしているケースが目立つことです。業界を見渡せば、同じようなものが並んでいます。
一方で、ヴァストベリの製品は、いつも目的設定をするところから開発が始まります。
「堅さ」と「柔軟さ」を併せ持つデザインを得意とすインガ・センぺは有機的なフォルムのクランプ式ライトを。建築家 デビッド・チッパーフィールドは建築用の複合ソリューションとなるコレクションを手がけるなど、特色を生かして協業している。
まず目的を決めてから、誰と協働すべきかを考えていきます。デザイナーによって得意分野が異なるからです。私は最も目的に適したデザイナーと、初日から密に関わりながら、共に製品を開発していきます。もちろん、途中でエンジニアや光学の専門家、電子工学の専門家などにも参加してもらいます。
実は一般的に、照明器具を開発するとき企業はデザイナーに「競合他社製品を参考に新たなバージョンを作ってくれないか?」と頼み、それに対してデザイナーが提案を持ってくる、ということが多いのです。でもこれでは、プロセスどころか明確な目的が欠けているといわざるをえません。
そしてもう一点付け加えたいことがあります。それは 「心を込めること」です。もし心を込めていないと、包括的な視点を持ち、製品をより良くするための気持ちを最後まで持ち続けることができません。ある程度うまくいったところで終わりにしてしまうのは簡単ですが、すべての要素を備えた製品を作るためには、最後までしっかりと取り組む努力が必要です。「目的」「協働」「心を込めること」これらが重要だと考えています。
デザインスタジオnendoのチーフデザイナー兼創設者である佐藤オオキが手がけたコレクション「w132 Nendo」
— デザイナーとのコラボレーションの話がありましたが、ヴァストベリと仕事をしているデザイナーには、日本人にもなじみ深い顔ぶれが含まれています。例えば、佐藤オオキやジャスパー・モリソン、ジョン・ポーソンなどは 20年以上前から日本のインテリアシーンで活躍しており、彼らの照明は日本のインテリア空間に落とし込みやすいと思います。マグナスさんとしては、ヴァストベリの照明を通して、ユーザーにどういった体験を提供したいと考えていますか。
結局のところ、私にとっての本質は「ウェルビーイング(健康・幸福)」に尽きます。ただし、それは身体的な健康だけでなく、心理的な健康も含まれます。また、現代の生活のあり方が変化し続けている中で、柔軟にウェルビーイングを創り出せるかどうかも関係しています。これは製品を作る際に非常に重要です。
キッチンテーブルの上にあるランプを使用している場面を考えましょう。昼間には、子供たちと一緒に宿題をしたり仕事をしたりするため、物理的な明るさにより健全な生活を成り立たせる必要があります。しかし、夕方には同じ場所で食事をし、心理的な健康を求めることになります。いろいろなニーズにきちんと対応し、ウェルビーイングを提供できることが重要なのです。
北軽井沢で行われた企画展『unplugged | 山の上等』で展示されたHalo
— YAMAGIWA で取り扱いはじめた商品には、W201 Extra Small Pendant と W202 Haloがあります。日本の標準的な高さよりもかなり低く設置してみましたが、ほかの器具で感じるようなまぶしさや圧迫感がなく、むしろ非常に心地よく感じられて驚きました。マグナスさんのおすすめの使い方があれば教えてください。
W201 Extra Small Pendant は、非常に多用途な製品だと思います。様々な使い方や設えが可能です。プリズマティックディフューザーによって光が制御されるよう設計されており、低くも高くも吊るせる商品です。個人的には低く吊るすのが好みですね。
この商品はサイズ感を吟味しました。形にしっかりと存在感があるので、単体でも美しさが際立つのです。そしてもちろん、多灯で使うことも想定しています。特に気に入っているのは、XS/M/XL すべてのサイズを組み合わせることです。同じフォルムで揃えつつサイズを変えて吊ると、とても魅力的ですよ。
— 最後に、ヴァストベリの次の展開について。直近でなにかどこかで露出や新商品の展開はありますか。また差支えなければ、ブランドの未来をどのように描いているか教えてください。
私たちの次の大きな展示会は 2025 年のミラノサローネで開催される Euroluce です。ここでエキサイティンとなプロジェクトを発表する予定です!
つねに私たちが常に大切にしているのは、本当に 「意味のあること」に執着することです。新しい製品を開発するのであれば、資源を使う以上、必ず意味があり、包括的に考え抜かれたものを作る必要があると思っています。毎日これを実践することで、私たちが世界で最も重要な照明会社になるという目標を達成したいと、真剣に考えているのです。
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Wästberg の 生み出す 感性のあかり【前編】
確固たる信念のもとにプロダクト作りを行うスウェーデンの照明ブランド、Wästberg(ヴァストベリ)。創業 2008年の新鋭ながら、早くも北欧照明の中でも独自の立ち位置を確立しています。