ルイスポールセンが生み出した照明の魅力
ルイスポールセンという照明会社をご存知でしょうか。
例えば、こういうペンダントランプを作っている会社です。
北欧雑貨が好きな人なら、なんとなく見かけたことがあるかもしれません。一方、インテリアや照明に詳しい方には、お馴染みのメーカーですよね。 ルイスポールセンの照明は古いものでは1920年代に生まれ、ほとんど形を変えないまま、現在も世界中で愛されています。まだ白熱電灯全盛の時代から、LED照明が普及した現在まで変わらず愛される、ルイスポールセンの照明には一体どんな魅力があるのでしょうか。 そのユニークな魅力を、代表的なモデルも紹介しながら見ていこうと思います。
Index
1.ルイスポールセンとは - 2.ルイスポールセン照明の魅力
- 2-1 人を心地よくする照明
- 2-2 雰囲気を作る照明
- 2-3 あらゆるシーンにマッチする照明
- 3.代表的なモデル
- 3-1 PH 5
- 3-2 PH snowball
- 3-3 PH Artichoke
- 4.まとめ
1.ルイスポールセンとは
ルイスポールセンは1874年、デンマークで設立された照明器具メーカーです。 当初工具や電気用品を扱っていましたが、1925年のパリ万博で発表した画期的な照明器具「パリ・ランプ」を発表したことで評判が高まり、現在では世界を代表する照明メーカーの1つに成長しました。有名インテリアメーカーのプロモーション写真やショールームでは、家具と並んだルイスポールセンの照明を多く見かけます。
中でも代表的な商品であるPH 5は世界で50万台を超すセールスを記録しており、日本だけでも7万5千台以上が販売されました。活躍の場はインテリア照明に限らず、デンマークをはじめとした世界各国の公設屋外灯や、病院・美術館など公共施設の照明を幅広く手がけ、照明だけでなく建築分野の国際的な賞を受賞しています。
ルイスポールセンの創設からはすでに100年以上が経ちますが、今も世界各国に法人を設け照明の設計・販売を行なっています。
2.ルイスポールセン照明の魅力
万博に出品された「パリ・ランプ」を、ルイスポールセンと共同で開発したデザイナーが、ポール・ヘニングセンでした。コラボレーションは彼が亡くなるまで40年以上にわたって続き、ヘニングセンは冒頭の写真でも紹介したPH 5など、ルイスポールセンの代表的な照明器具を多数手がけました。
その哲学や手法はやがてルイスポールセン自身の「光をかたちづくる」デザインとして受け継がれていきます。ここではそんな両者の対話から生まれた照明の魅力を3つの視点から見ていこうと思います。
2-1.人を心地よくする照明
季節とともに昼間の時間帯が短くなっていくとなんとなく憂鬱な気持ちになってしまうもの。北欧では日本に比べさらに日照時間が短く、宵闇の中で街が蒼いトーンに包まれる 「ブルーアワー」という時間が長く続きます。
そんな家々の中にやさしい灯りを届けているのがルイスポールセンのランプです。 ポール・ヘニングセンは人の体が、昼から夕暮れにかけての自然な光の移ろいに順応していることに着目し、黄昏の光に調和す る照明をデザインしました。
まずは対数螺旋という数学的な曲線に沿ってシェードをデザインしました。このシェードの内側では、光源が広がるにつれて均等に反射します。この設計が人の目にまっすぐ入てくるような眩しい光(グレア)ではなく、自然光のような柔らかな陰影のグラデーションを描くのです。
シェードの処理にも心地よい光を生む工夫があります。内面にフロスト加工をすることで、きめの細かい曇りガラスのようなマットな質感を生み出し、光源がソフトに反射するようにしているのです。また、 モデルによってはシェードの反射面に赤や青の塗装がされています。これは人が眩しく感じやすい黄色と緑の光を弱め、優しく感じやすい光に調整するためです。
2-2.雰囲気を作る照明
部屋全体の明るさを均等に引き上げるシーリングライトのような照明と違い、ルイスポールセンの照明は部屋の中に明暗のバランスを生み出します。 テーブル、ソファ、部屋の隅など要所要所に置かれたランプは部屋に陰影をもたらし、実際の広さ以上の奥行き感を与え、環境すら変えてしまいます。 滑らかな光と陰のグラデーションが生まれることで、部屋はまるで暖炉をつけたようなほっと落ち着く雰囲気になるのです。これはシェードの曲線や光色など照明の一つひとつの要素を、人の心地よさを基準に調整したルイスポールセンの照明だからできることです。
北欧のブルーアワーでは、蝋燭を灯すようにひとつずつ照明が灯されます。その過程で宵闇に包まれていた家の中に、落ち着ける夜の表情があらわれるのです。 人が一日を終えて帰る家のあたたかさを、ルイスポールセンの照明は光を通して形作っています。
2-3.あらゆるシーンにマッチする照明
ヘニングセンはデザインした照明の数々を単なる製品の集まりとは考えず、全体で一つのシステムとして考えていました。長年にわたり生まれた1000 種を超えるモデルの中にはウォールランプ、テーブルランプ、フロアランプなど様々なタイプのものがあり、使われる場所や用途に合わせて選ぶことが可能でした。また、同じモデルでもシェードの素材や加工を変えることで光に温かみや、クールな印象を与えるなど性質まで選択することまでできたのです
現在ではその全てが手に入るわけではありませんが、目的やシーンに合わせて様々な照明を選べる魅力は健在です。 例えば、北欧のペンダントランプは通常、ダイニングテーブルから60〜80cmほどの位置に吊るすのが良いとされています。 これは、必要な場所に必要な明かりを効率よく届ける照明の工夫でもあるのですが、シーリングライトに慣れている人の中には もう少し高い場所に吊るしたい、テーブルだけでなく周りも明るくしたいと思う方もいるかもしれません。 そういう場合はPH 5 - 4 1/2というモデルがあります。
PH 5 - 4 1/2はシャンデリアの代わりに空間の高い位置に吊るすことができるランプ゚として設計されたものです。 PH 5をはじめとした3枚シェードのシリーズに4枚目を加えることで 水平方向に反射される光を増やし、周囲の壁面や棚を明るく照らすことができます。 このように、ポール・ヘニングセンのランプは様々な形に人に寄り添う、自由な明かりを人に提供してくれます。
3.代表的なモデル
3-1.PH 5
PH 5はルイスポールセンを代表するランプのひとつであり、同時にデンマークの国民的ランプでもあります。発売から60年以上経った今でも圧倒的な支持を受けるこのランプには、ポール・ヘニングセンが「パリ・ランプ」から続けてきた光を形づくる試行錯誤の成果が現れています。対数螺旋シェードや光色の操作によって生み出される人の体に優しい明かりは生活にゆとりや憩いを与えてくれるでしょう。 PH 5には北欧らしい柔らかな色のカラー展開もあり、部屋のインテリアに合わせて選べるのも魅力です。
3-2.PH snowball
PH snowballに使われる光源は 200W の大型シリカ電球です。 これほど明るい電球になると、家庭の照明で見かけることはあまりなく、そのまま肉眼で見ると眩しすぎるほどです。しかし、PH snowball のスイッチを入れてもあの目をさすような鋭い光は目に入らず、40cm近くの大振りなシェードからは部屋全体に柔らかな雪のように光が降り注ぎます。この独特な明かりは、光源をすっぽり覆う対数螺旋はもちろん、シェードの両面を光沢とマットに塗り分ける塗装から生まれています。
3-3.PH Artichoke
その名前の通り野菜のアーティチョークそっくりなこの照明は、バルト海を望むレストランの照明として作られました。独特なデザインは照明というよりも彫刻や現代アートのよう。世界的にも有名で一種のデザイン・アイコンになっています。ヘニングセンは設計した当初、光源を取り囲む羽の素材にヘアライン加工をした無垢の銅を選び、内側をローズカラーで塗装しました。これによってランプの印象は温かみのあるものとなり、内部の光源に美しい色の反射が生まれます。 レストランに生まれたPH アーティチョークは今も、その明かりの下にいる人に、憩いのひと時と料理を魅力的に見せる光色を届けているのです。
4.まとめ
ポール・ヘニングセンはこんな言葉を残しています。
”ひどい照明の下で無関心に生活することもできます。(…) しかし、いったん本物の照明を経験すれば生活は新たな価値で満ち溢れるのです。 ― Poul Henningsen”
へニングセンは人の生活に自然光がどのように関わっているのか、光の色が人にどんな影響を与えるのかといったテーマを追求する中で多くの照明を遺しました。多くの照明が空間を明るく照らすことを一番に考えていた時代にあって、彼はその空間にいる人にこそ、しっかりと目を向けた最初期のデザイナーの一人だったかもしれません。 ヘニングセンの没後も、彼のデザイン手法はルイスポールセンに受け継がれ、様々なデザイナーによって多くの傑作照明が生まれました。
アーネ・ヤコブセンのAJ テーブル、マッス・オドゴーのAbove(アバーヴ)、デザイン・デュオであるガムフラテーシによるYUH TABLE、オイヴィン・スロットがデザインしたPatera(パテラ)などルイスポールセンのすべてのランプはヘニングセンが理想とした「ユーザーが理想とする雰囲気を作りだし、最も大切なものを明るく照らす」設計をそれぞれに再解釈したものです。
照明を通し、人々の生活や幸福すら司る。そういう姿勢が貫かれているところにルイス・ポールセン社の照明の魅力があるのかもしれません。